review!Text by 一ノ木裕之、zu-hause (http://d.hatena.ne.jp/zu-hause/)    TOPに戻る



(さてつ の ひと)  (MVCD-003) 05'10〜発売中!!!!!
生きる上にまつわるすべてに意味はないのだと言い切れるなら、生きるとはなんと身軽なことだろう。しかし現実には、人はそう簡単に言い切れるものではない。  
日々のうちに人は自ずと意味を探し、見出し、その中にこそ生きるということを見つけていく。
イツロウの音楽もまた、そうした生きることとは無縁の軽はずみなファンタジーや逸脱するユートピアではありえない。日々の中に意味を見出さんとするからこそ時につまづき、つまづくからこそ立ち止まる――そんな歩みが言葉となり、音へと変わっていく。
イツロウの音楽は、それを聴く者はもちろん、自らをも決して救わない。 その意味では残酷ですらあり、彼が生きることに見出した意味そのものですらないのかもしれない。しかし、それは生きること、引いては、音楽を生み出すことへと向かう彼の真摯な態度の現われであり、やも立てもいられず発する、自らの生への切実な問いかけだ。
日々の生は希望へとつながっているのか? 
あるいはそれは終わりなき苦悩なのか?
――その答えはイツロウがこれから過ごすであろう時とともにある。

Text :一ノ木裕之
イツロウ氏の最近の発言からは、ヒップホップに関しての、ある種の否定とも取れる部分がそこかしこから伺い知れた。彼の根底にあるものが、必ずしもヒップホップではなく、広義の意味でのロックであったりSSWであったりといった事実は、彼の作品に触れた事のある方ならば同意頂けるでしょう。  自らのサウンドを「ジャンクホップ」と標榜し、そこに加味していくといった方がしっくりくるような、所謂ヒップホップマナーからは大きく逸脱しつつも、ラップ(ないしポエトリー)とビートの奇妙な交わりに、心踊らされた人も少なくない筈。幾つものジャンルが複雑に入り交じり、浮かび上がるはヒップホップ然と全くしていない、複数の楽器群を用いての色彩豊かなサウンドは、寧ろヒップホップリスナー以外の、自由で広い耳を持つ人達に強烈にアピール出来るものだと思う。彼がシンセを多用(勿論自身による手弾き)している点に焦点を当ててみる。筆者、そして彼自身もその存在には賞賛して止まないアンチコンのWhy?という人物を引き合いに出してみようか。彼がアンチコンという、最もレフトフィールドで先鋭的なサウンドを提示している「ヒップホップ集団」に所属していながらも、徐々に逸脱を見せ、様々なジャンル/サウンドを飲み込み、吐き出すといった繰り返しに、彼も激しく共感を寄せているのではないだろうか? Why?が今の様なサウンドへと辿り着いた過程というものは、やはり紆余曲折の繰り返しだったのではないだろうか?それはイツロウ氏の嗜好とも足並みが揃っている様にも思えてならないのだ。彼等は、ヒップホップ以降をも大事に内包させ、果敢に、リスクすらも恐れる事なく自分の信じる道を歩んでいる 。それがなんとカテゴライズされようが、当人達にとっては別段どうでもよい話しであろうけれど。

本作「蹉跌の人」に並ぶ楽曲群には、音(主にヒップホップ)に対する姿勢等も含め?ECDの影を見た。歌詞や世界観という部分にではなく、ヒップホップの可能性を押し広げ、異ジャンルで活動している人達との接近や、貪欲に、多岐に渡るサウンドを取り込んでいく姿勢は、先人の、昨今の活動にも何かしら影響/思う部分もあるのではないだろうか?そういえば、声質やルックスも・・・ねえ?

たった一人で創りあげられる、ヒップホップクリシェからも大きく逸脱した無二のサウンド群。彼が自ら提示している「ジャンクホップ」という重要な言葉を引用して話しを進めてみる。「ジャンク」のみで語られるならば、破壊的な衝動を本能の赴くままにサウンドに落とし込む風景なんかを思い描いてしまいがちであるが、そこに「ポップ」ならぬ「ホップ」という最重要ワードを結びつける事によって、軽やかさや柔軟さは勿論、より深みのあるサウンドまでも提示してみせる。シンセ、エレドラ、MPCなんかを駆使する音作りだけを切り取ってみても、ヒップホップを実践している人達とは大きな差異が確認出来る。実際、プロダクションの自由さやある種の歪さなんかも、彼にかかれば「ヒップホップ」的なものであろうし。そんな大味な、彼に倣ってみれば、自由で大きな振れ幅に彩られたジャンクホップサウンドが、縦横から聴こえてくる。リリシストとしての彼独自の世界観は、今作で更にオリジナリティを獲得しているし、様々な情景を強く喚起させられた。

今作は勿論、今後リリースされていくであろう作品にも「ヒップホップ」は、常に傍らで鳴っている事でしょう。が、しかしそれはあくまでも単なる手法の一つであろうから、ヒップホップに固執するという意味合いではなく、正しく「音」に真摯に向き合い、クリエイトする彼の姿勢には、真に尊敬に値するものだと思う。ライブの予定もあるという今後の動きにも注目である。

Text : zu-hause


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